室温・大気雰囲気でのレーザー金属成膜

新規開発中のレーザー金属成膜には、
既存のレーザー成膜技術にはない、次の5つの特徴があります。

1.大気雰囲気での成膜が可能。
   当然、技術的には、真空雰囲気で成膜することも、ガス置換した雰囲気での成膜も可能。
2.マスクレスで線状の成膜が可能。
   成膜パターンは直線でも、曲線でも可能。
3.金属であれば、純金属(銅など)だけでなく、合金(身近なところでSUS)でも成膜が可能。
   膜組成比は評価できていませんが、条件によると思われます。
4.基板加熱不要で成膜が可能。
   成膜後、水道水と界面活性剤で洗浄しても膜が剥離しません。
   一例として、幅50μm程度のライン状成膜部分でのテープ剥離テストでも膜剥離しません。
5.透明であればガラスでもアクリル板でも成膜可能。

例えば、下の2枚1組の画像はスライドガラスに「市松模様」を室温、大気雰囲気下でマスクレスでレーザー成膜したものです。
右上の画像に、強めの照明を照射して、反射光を強調して撮影した画像が左下の画像です。

下の画像は、上に示した市松模様のパターンが変わる部分を拡大観察した画像です。

上記のようなパターンは、直線を任意のパターンでマスクレスで成膜したものです。
同様に、曲線パターンも成膜可能です。
下の画像は、幅約50μmの銅の膜を同様の方法で、スライドガラス上に円形状に成膜したものです。
もっと複雑なパターンも可能です。
更に細い成膜なども、今後、ご紹介していきたいと思います。

検討すべき項目はまだありますが、将来的には、アンテナ(5Gなど)や、小型のセンサーデバイスなどへの応用が期待できるかもしれません。

透明アクリル板に金属(銅)をレーザーで成膜してみた。

 市販の透明アクリル板に銅を成膜して、文字とQRコードを描いてみました(画像1)。
 大気圧雰囲気、基板無加熱でマスクレス成膜です。

 成膜後に、水道水+界面活性剤で、指で擦りながら洗浄しました。
 その後に、ティッシュペーパーで拭き上げ処理をしても膜剥離しませんでした。
 ちなみに、画像2も同様の後処理をしています。
 また、簡易的なテープ剥離テストでも、膜剥離はありませんでした。

 今回の例では、文字を形成する細線の幅は約0.1mmです。
 
 光沢感を強調する為に、掲載画像では、サンプルに白色照明をあてています。
 画像1では、2パターンの色合いを示しています様に、ある程度の色合いの制御も可能です。

 画像2でも、アクリル板に銅を成膜した例を示しています。
 こちらは、手でサンプルのアクリル板を持ち、指で曲げています。
 繰り返し曲げる動作をしても、膜が剥離することはありませんでした。


 これらの成膜には、パルスレーザーを使用しています。
 但し、所謂、パルスレーザーデポジション(PLD)ではありません。
 この成膜方法は、PLDとは異なる考え方に基づいた成膜方法であり、現在、開発を進めています。
 
 今のところ、成膜可能な基板は透明ガラス、透明アクリル板ですが、その他の基板材料も検討中です。
 また、成膜可能な材料は、金属ならば対応可能と思われます。

 加飾、アクセサリー、ロゴ、コード(QR,JAN,etc)などへの利用可能性があると思われます。
 

“小さな”フレキシブルディスプレイや、ウェアラブルデバイスに応用できるかな? ~ポリイミドフィルムの微細加工~

 ポリイミド製のフィルムはフレキシブルデバイスや、ウェアラブルデバイスの基板として利用されることもあるようです。
 見た目は、大抵、薄茶色~茶色です。最近では、透明タイプも開発されているようです。
 フィルムの厚さは、数十μm~百数十μm程度のものが多いです。

 レーザー加工では、そのような材料の加工も得意(!?)です。
 つまり、数十μm程度の薄めの素材で、やわらかく、熱変性しやすい材料などの加工です。
 例えば、下の写真(画像1)のような加工もできます。
 画像右下の目盛り(50μm)を見てもらえれば分かるように、とても小さいです。

 画像1は、厚さ0.05mmのポリイミドフィルムに、試し加工したものです。
 これは洗浄していませんが、もし洗浄できれば、もっと見た目が美しくなったかも?
 逆に言えば、加工による焦げ等は、ほとんど無いとも言えるかもしれません。
 大きさは、楕円の長軸(楕円形の横方向の長さ)が約0.6mmです。
 中央の円形は直径0.16mm程度です。
 両側の2つの円形は直径0.07mm程度です。
 
 ちなみに、画像1の形状は、もっと大きな面積のフィルムから切り出したものです。
 画像2は、切り出された側、所謂「抜け殻」フィルムを撮影しやすいように、適当に切り出したものです。
 画像1は、楕円形1個ですが、実際には、90個加工したうちの1個だったということです。

ついでに、違う形状も、加工してみました(画像3)。

 音叉形? 馬蹄形?
 カーブしているところは半径0.05mm程度、線幅は0.04mm程度です。
 この大きさになると、指でも、ピンセットでも持てません。
 取り扱い注意です。乱暴に扱うと折れてしまうので。
 このポリイミドフィルムは試し加工として使用した材料なので、汚れが目立ちますね…。 
 ちなみに、この形(画像3)を切り取られた側のフィルムは画像4のような状態です。

【応用】X線顕微鏡

X線顕微鏡は、光源にX線を利用した顕微鏡で、X線の発見から半世紀程度しか経っていないため、比較的新しい原理の顕微鏡です。

X線が物体に入射すると、以下のような現象が起き、各性質を生かして様々な分析が行われます。

  • 蛍光X線ー>元素分析
  • 光電子ー>表面解析
  • 回折ー>結晶解析
  • 散乱ー>分光・分析
  • 吸収ー>分光・分析
  • 偏光ー>分光・分析
  • 位相ー>生体観察

小さな物体を観察するための方法として、像を拡大して観察する顕微鏡があります。光を用いて物体を観察する顕微鏡では、観察できる最小量である分解能は、使用する波長とレンズの開口数NAによって決まります。分解能は、波長λとレンズの開口数NAと定数kを用いて kλ/NA で表されます。より細かいものを観察するためには、より高い分解能が必要となりますが、この関係式から波長を短くするかNAを大きくすると良いことがわかります。

電子顕微鏡(SEM)でも、原子レベルの分解能が得られますが、真空中で観察する必要があるため、生体材料など水分を含んだ物体を生きたままの状態での観察は難しいです。

大気中でなるべく高分解能となるような装置を前提に、波長に注目したとき、物体を観察する光源としてX線のように短い波長の光を使うと分解能を非常に高められることがわかります。

X線顕微鏡は、倍率が高くなるので明るい光源が必要となります。従来はシンクロトロンの放射光が使われていたようですが、重大な問題が具現化しました。長時間利用による放射線損傷と熱などによるブレアが像に見られることです。この問題を解決するためにX線の露光時間をナノ秒まで短縮して機器への影響を最小にしています。反対に、短時間での観察を可能するため強力な光源が必要となります。そのためレーザー生成プラズマが利用されます。

生体材料を観察するために波長2.3~4.3nmが利用されます。この領域では、水分子の酸素に吸収される割合が、生体材料のタンパク質の炭素での吸収の10分の1以下であるので水を含んだ生体材料を観察できることになります。しかし、ミラーの反射率が数%程度しかないので、反射現象を利用した結像系を実現することは難しいです。そのため、X線レジストに非測定物を密着させ、その陰を観察する手法がとられます。この像を原子間力顕微鏡(AFM)にて観察します。これにより数nmの分解能が得られます。

この手法の問題は、厚い試料の観察ができないことです。そのため、X線領域で利用できる光学素子ができることが期待されてきました。また、コヒーレントな光源を実現できれば、ホログラフィの原理で立体画像の生成も可能となると考えられてきました。

1980年代の半導体製造技術の進展などにより、光学素子の実用化に弾みがつきました。同時期に、光源の研究開発が飛躍的に進みました。

これにより、徐々に使いやすいX線顕微鏡が製品化されてきました。光学部品の性能も向上し、卓上型のX線顕微鏡も市販されています。非破壊にて内部構造を高分解能で観察できるものもあります。X線を適切にスキャンすることで3次元的な像を取得し、専用のソフトウエアで立体的に可視化できるようになっています。

また、時間的に連続して像を取得することでCTを利用して4次元像も表現できるようになってきています。

このように、X線顕微鏡は、すでに実用の域に達しており、像の観察のみならず様々な分析に活用されています。

【基本】超短パルスレーザー

レーザーでの加工は、その特性をいかし、多くのメリットがあります。特に微細加工においては、超短パルスレーザーが注目されています。近年、工業用途においてレーザー光源自体の安定性・信頼性が向上し、ものづくりで利用される機会が多くなってきています。

連続的にレーザーを発射し続けるCWレーザーとは異なり、パルスレーザーは発射のOn/OFFを繰り返します。このパルスONの時間が短いレーザーは短パルスレーザーと呼ばれます。従来は、ナノ秒が使用されていました。ピコ秒/フェムト秒等の特に短いレーザーは超短パルスレーザーと呼ばれています。

ナノ、ピコ、フェムトは、接頭語でそれぞれ\(10^{-9}, 10^{-12}, 10^{-15}\)を表します。光速を\(3×10^{8}m/s\)とすると、1秒間に進む距離はナノ秒レーザーで300mm、フェムト秒レーザーでは0.3μmとなります。フェムト秒レーザーは、非常に短いパルスであることが分かります。

物質に対するレーザーでの加工は、一般的に熱加工であり、物質に熱を加える時間を短くすることで、物質への損傷を抑えることができます。レーザー照射時の熱拡散長\(x_D\)は、レーザーのパルス幅を\(\tau_p\)として、次式で表されます[1]。

\(x_D=\sqrt{\frac{2k_0\tau_p}{C_i}}\)

ここで、\(k_0[Wcm^{-1}K^{-1}]\)は熱伝導率、\(C_i[Jcm^{-1}K^{-1}]\)は格子イオンの熱容量です。例えば、銅に対してレーザーを照射し、蒸散が起こる融点で加熱すると、フェムト秒レーザーでは\(x_D\)=329nmですが、10nsのナノ秒レーザーでは、\(x_D\)=1.5μmとなります。ナノ秒レーザーの方が材料への損傷が大きいことは明らかです。

実際の加工結果を次の写真で示します。写真左から、ナノ秒レーザー、ピコ秒レーザー、フェムト秒レーザーでの加工結果です。写真上段がアルミ、下段が銅への溝加工結果です。ナノ秒->ピコ秒->フェムト秒とパルス幅が短くなるに従い加工幅が短くなり、きれいな加工になっていることが分かります。

[1] フェムト秒レーザーによる物質プロセッシング、橋田昌樹et.al.、光学、31 第8号(2002) 621