【基本】ポッケルスセル

ポッケルスセルは、光の偏光方向を電気的に変更できるEO(Electro-optic)デバイスです。電圧で制御する波長版とも言えます。また、印加する電圧を変化させると、位相遅れを発せさせることができます。

このデバイスはポッケルス効果と呼ばれる現象を利用しています。物質に電圧が加わったときに物質内部の分極率が変化し、屈折率が変わります。屈折率は電圧に比例します。似たような現象にカー効果がありますが、こちらは電解の2乗に比例して屈折率が変わる現象です。また、ポッケルス効果は、圧電性のある物質にしか作用しません。このポッケルス効果とは、ドイツの物理学者であるフリードリッヒ・ポッケルスに由来します。

物質の素材は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)やリン酸二重水素化カリウム(KD*P)、BBO 、CdTe などがあります。

使用できる波長も紫外から遠赤外まで幅広く、各波長で適切なARコートがされているものもあります。

駆動電圧は、数kV以下程度が多く、MHzレベルの高周波で駆動できるデバイスもあります。立ち上がり時間もns以下と短く、高速な動作が要求される応用にも利用可能です。

光を入れる口径もφ数mm程度のデバイスが多く、扱いやすくなっています。

応用例としては、DPSSレーザー用Qスイッチ、レーザーの再生増幅制御、ビームチョッパー(アイソレーター)などがあげられます。

“小さな”フレキシブルディスプレイや、ウェアラブルデバイスに応用できるかな? ~ポリイミドフィルムの微細加工~

 ポリイミド製のフィルムはフレキシブルデバイスや、ウェアラブルデバイスの基板として利用されることもあるようです。
 見た目は、大抵、薄茶色~茶色です。最近では、透明タイプも開発されているようです。
 フィルムの厚さは、数十μm~百数十μm程度のものが多いです。

 レーザー加工では、そのような材料の加工も得意(!?)です。
 つまり、数十μm程度の薄めの素材で、やわらかく、熱変性しやすい材料などの加工です。
 例えば、下の写真(画像1)のような加工もできます。
 画像右下の目盛り(50μm)を見てもらえれば分かるように、とても小さいです。

 画像1は、厚さ0.05mmのポリイミドフィルムに、試し加工したものです。
 これは洗浄していませんが、もし洗浄できれば、もっと見た目が美しくなったかも?
 逆に言えば、加工による焦げ等は、ほとんど無いとも言えるかもしれません。
 大きさは、楕円の長軸(楕円形の横方向の長さ)が約0.6mmです。
 中央の円形は直径0.16mm程度です。
 両側の2つの円形は直径0.07mm程度です。
 
 ちなみに、画像1の形状は、もっと大きな面積のフィルムから切り出したものです。
 画像2は、切り出された側、所謂「抜け殻」フィルムを撮影しやすいように、適当に切り出したものです。
 画像1は、楕円形1個ですが、実際には、90個加工したうちの1個だったということです。

ついでに、違う形状も、加工してみました(画像3)。

 音叉形? 馬蹄形?
 カーブしているところは半径0.05mm程度、線幅は0.04mm程度です。
 この大きさになると、指でも、ピンセットでも持てません。
 取り扱い注意です。乱暴に扱うと折れてしまうので。
 このポリイミドフィルムは試し加工として使用した材料なので、汚れが目立ちますね…。 
 ちなみに、この形(画像3)を切り取られた側のフィルムは画像4のような状態です。

【基本】偏光ビームスプリッター

一つの光線を二つに分岐させる光学素子にビームスプリッター(Beamsplitter : BS)があります。ビームスプリッターひとつをとっても、その仕様によりいくつかの種類に分けられます。

光線の偏光方向によって、分岐の方向(透過・反射)が変わるビームスプリッターを偏光ビームスプリッター(Polarizing Beamsplitters : PBS)といいます。

偏光ビームスプリッターは、光線にP偏光とS偏光が含まれていた場合、P偏光を透過、S偏光を反射させます。このように、偏光状態により光線を垂直に2つの光線に分岐させます。

コーティングとして誘電体多層膜が使われることが多く、光のロスが少なく効率よく光線を分岐させることができます。

このような特性がありますので、使用に際し、最適な波長は決まっており、通常は光を入射させる方向も決まっています。

偏光ビームスプリッターには、他のビームスプリッターと同じように、キューブ型とプレート型があり、それぞれ長所・短所があります。

キューブ型ビームスプリッターは、斜面に光学薄膜とつけた2つの直角プリズムの斜面同士を張り合わせてキューブ上にしたビームスプリッターです。このキューブ型ビームスプリッターは、光線が0°で入射しますので、光線のアライメントが容易で、透過光と反射光の光路差がないという特徴があります。また、透過光のビームシフトがなく、光学薄膜が空気に触れないため経年劣化が少ないという利点もあります。しかし、重量が大きく、大きなサイズを作成しにくく、一般的に価格が高いです。また、透過光の消光比と反射光の消光比が異なることが多いです。さらに、プリズムを構成するガラスの厚みがありますので、光線に波長分散が生じます。

プレート型ビームスプリッターは、プレート表面に誘電体多層膜などの光学薄膜を構成し、1枚で偏光ビームを分岐させることができる偏光ビームスプリッターです。基板1枚の構成のため、キューブ型と比べて軽量で比較的大きなサイズも製造でき、安価です。また、一般的に、より高い消光比や透過率、損傷閾値を要求される場合にこちらのプレート型が用いられます。しかし、透過光のビームシフトがあり、45°の角度で光線を入射される必要があるのでアライメントが多少面倒です。

このように、それぞれの型の特性をよく理解して、用途や目的に合わせて選択する必要があります。

偏光ビームスプリッターの用途としては、ランダム偏光のレーザー光線を1:1に分割したり、1つの偏光方向の光を取り出すフィルタリング用途に用いられます。

【応用】レーザー切断加工

最も広く普及しているレーザー切断加工の応用は、板金(シートメタル)加工だと思われます。これは、板状の金属を所定の形状にレーザーで切断加工する応用です。切断は、外形切断だけではなく、穴あけやスリット加工も含みます。

板金の加工は、切削などの機械加工やエッチングなどの化学加工、放電加工も候補となりますが、加工経路(パス)の自由度やコスト、加工速度、さらに加工品質を考慮して、レーザーが選択される場合があります。

需要としては鉄、ステンレス、アルミなどの金属の加工が多いようですが、セラミックス、木材、ゴム等の非金属も加工も行われます。

使用されるレーザーは、CO2レーザーが主流でしたが、YAGレーザーやファイバーレーザーの割合が多くなってきています。連続発振するCWレーザーが多いですが、まれにパルスレーザーが用いられます。加工条件の違いにも依存するようですが、パルスレーザーの方が高品質な加工ができるようです。

レーザーを被加工部表面に集光させ高いエネルギーを与えることで切断加工を実施します。被加工物に対するレーザー集光点を相対的に移動させることで、穴あけや切断などを実施します。レーザー移動機構の進歩や、CAD/CAMの発展により、より柔軟な形状をより高精度に高速に加工できるようになってきました。

この応用の当初のレーザー出力は、1kW程度でしたが、時代とともに大出力化に進み、現在では10kW以上のレーザーもあります。

また、加工中はアシストガスを有効に活用することで、加工の促進を図ったり、高品質化を目指したりします。

これらの技術進歩により、初期の頃は、切断できる材料の厚さはSPCCで数mm厚だったものが、現在では、20mmを超える厚手の材料まで切断できるようになりました。

【基本】ポンデロモーティブ力

3次元空間で強度が一様でない振動電磁場下で荷電粒子に加えられる力のことです。原子や分子にレーザー光を照射すると、電子は光電界によって力を受け、励起されます。x軸方向に偏光したレーザー光の電界を

$$ E_c = E_0 sin \omega t $$

とすると、電子の振動のエネルギー(=ポンデロモーティブエネルギー、 ponderomotive energy)は、光強度\( I \)、周波数\( \omega \)、電子の素電荷 \( e \)、電子の質量 \( m \)を用いて、次のように表されます。

$$ U_p = \frac{e^2 E^2_0}{4 m \omega^2} = 9.3 \times 10^{-14} I \lambda^2 [eV] $$

この式から、光強度に比例して、周波数の2乗に反比例することが分かります。

電磁場が一様な場合には、電荷が一周期後には元の位置に戻ります。しかし一様でない場合には、電荷が振幅の大きい領域にいる間に働く力は振幅の小さい領域へと向かうことになります。振幅の小さい領域にいる半周期の間に働く力は、振幅の大きい領域へと向うが、その大きさは小さいです。結果として、一周期の間に働く力を平均すると電荷は振幅の小さい領域へと向う力を受けていることになります。

また、レーザー強度があまり大きくない場合には、電子の振動のエネルギーは光電界に戻されますが、レーザー強度が大きく(> \( 10^13 W/cm^2 \) )なると、非線形効果により、多数の光子を同時に吸収して電離する多光子電離が起こります。

このポンデロモーティブ力により荷電粒子の振る舞いは、以下の分野で応用されているようです。

  1. 四重極イオントラップ
  2. プラズマ加速
  3. プラズマ推進エンジン
  4. 高次高調波発生
  5. テラヘルツ時間領域分光

【基本】TEA-CO2レーザー

単位体積当たりのレーザー出力が大きいレーザーにTEA-CO2レーザー(transversely excited atomospheric pressure laser:大気圧横方向放電励起レーザー)があります。CO2-N2-Heの3種混合ガスを媒質とするガスレーザーで波長は10.6μmで、1気圧以上の高圧動作が可能です。

光軸に平行に対向して設置された1対の電極間に電圧を印可して放電されます。この電極は、放電領域にわたって空間的に均一な電界が得られるように設計されており、高速放電回路を用いて数マイクロ秒以下の短時間の放電が行われます。また、安定して発振させるためにコロナ予備電離機能を備えています。

放電管1Lの容積のレーザーで~20J程度のエネルギーが得られ、尖頭値はメガワット級となります。パルス幅はマイクロ秒レベルで、~1000Hz程度の繰り返し周波数をもちます。ガスの寿命も108程度と比較的長いです。

レーザーマーカー、塗装剥離、EUV生成、ワイヤストリップ、材料加工、テラヘルツイメージングなどに利用されています。また、大気中での吸収が少ないのでレーザーレーダ(ライダ)などにも使われます。

【基本】チタンサファイアレーザー

サファイア(Al2O3)にTi3+イオンをドープしたレーザー媒質を持つレーザーが、チタンサファイア(Ti:Al2O3)レーザーです。0.66~1.15μmの幅広い帯域で発振され、一つの媒質としては最も広く、波長可変レーザーとして知られています。最も効率が良いのは、800nmです。

また、媒質がサファイアであるため、硬く安定しており、熱伝導性も良いのでレーザーの実用には有利です。励起光源としては、Nd:YAGレーザーの第2高調波や、アルゴンレーザーなど高出力で安定したレーザーが用いられます。レーザー上準位の寿命が3.2μsと短いため、ランプ励起は使えません。

発振形態としては、超短パルスから連続発振まで幅広い使われ方があります。チタンサファイアの結晶と、波長選択と分散補償のためのプリズム対、可変幅スリットから構成される共振器でパルス幅11fsの超短パルスが得られた例もあります。

また、近年は広帯域にわたって分散を制御するチャープミラーなどを使うことで10fs以下のパルス幅も実現されています。理論的には、350nmある利得帯域幅からすると、3fs程度のパルスが発生できる可能性があります。

この超短パルスは、共振器内のパルス自身がレーザー媒質内部で引き起こすレーザービームの自己集束を利用したカーレンズモード同期によるものです。いったんモード同期がおこると、自己位相変調により周波数が広がり、さらにパルスが短くなり、ピーク強度が増加します。これにより安定したモード同期発振がなされます。

さらに、従来の色素レーザーに比べ平均出力が大きいという特長があります。チャープパルス増幅を用いた再生増幅器も実用化されており、mJ程度のさらに大きなエネルギーを扱うことができます。

テラヘルツ光の発生やフェムト秒分光、微細加工などの用途で用いられています。

【応用】レーザーの医学応用(3)

レーザー治療

レーザーの医学応用として、治療や計測がありますが、ここでは、治療についてみてみたいと思います。

レーザーの生体への作用は、以下があげられます。

  • 光熱的作用:光が組織に吸収され熱となることで何らかの作用を行うことです。アブレーションなどがありますが、その他にも、熱的な除去、凝固、破壊などがあります。この作用により切開や穿孔、面的な除去を行います。心筋梗塞の心臓に対して貫通穴を開け血液循環を回復したり、血液凝固により組織の接着、止血などの実績があるようです。
  • 光音響作用:光を照射することで発生する高周波の振動を治療に役立てるものです。一例として、結石治療があります。多くは、水の入ったバスに入りスパーク放電などで衝撃波を発生させ、衝撃波により結石を砕きます。この方法を適用できない症状には、レーザーによる治療が行われることがあります。短パルスレーザーによる急速加熱により結石に膨張が起き衝撃波が発生し、その反作用としてさらに結石が破砕されるというものです。
  • 光化学的作用:光を照射することで、化学的に病変部を壊死させたり、活性化することで回復を早めることを指します。低出力のレーザーでは、痛みの緩和や鍼と同等の作用を発生させる場合もあるようです。

このように、レーザーの特性を有効に活用することで、消火器、呼吸器、循環器、泌尿器、眼科、耳鼻科、皮膚科、歯科等の幅広い領域で実用化されています。

1. 眼科治療

1.1 眼底治療

眼科治療のうち、眼底疾患へのレーザー応用は比較的早くから行われたようでようです。疾患としては、網膜症や眼底出血が対象となり、失明の危険もあるだけに重要な治療方法となっているようです。

眼球にコヒーレントな光が入ると、網膜上に集光されます。光が通過する水晶体等は水が主成分ですので、青や緑色の光が高い透過率を持ちます。このため、光源としては、514.5nmのArイオンレーザーが用いられることが多いようです。また、治療内容によっても変えており、例えば血管系はヘモグロビンへの吸収が良い577nmのレーザー、脈絡膜など深部の治療は波長の長い630nmのレーザーが使われているようです。

このように、レーザーが網膜まで到達して集光するという特性を活かして、剥離した網膜組織を加熱して凝固させたり、止血を行います。

1.2 近視治療

近視は、屈折力の低下により網膜に像が結ばなくなる疾患の一つですが、レーザーを応用した近視治療は、角膜を適切に処置することで屈折率を正常に戻すことを指します。屈折を司るのは角膜の他に水晶体がありますが、角膜は空気と接しているためにその影響が大きいため、直接角膜を処理します。

処置は、大きくPRK法とRK法があります。PRK(PhotoRefractive Keratectomy)法は、角膜表面を2次元的に除去して曲率半径を大きくする方法です。RK(Radial Keratotomy)法は、角膜表面に放射状に切り込みを入れいる方法です。近年は、安全性の高いRK法が主流のようです。

レーザー光源は、高品質な加工ができるエキシマレーザー(193nm,ArF)が用いられることが多いです。しかし、近年ではピコ秒レーザーのような超短パルスレーザーも使われるようになってきているようです。

2. 皮膚科治療

皮膚科治療のレーザー応用で多いものが「あざ治療」です。あざは、正常組織中に病変組織ができることで発生します。従来は、外科的に切除したり、ドライアイスなど極低温で凍結壊死させる方法がとられてきました。レーザーでは、選択的に処置を行え、正常組織に損傷を与えないというメリットがあります。

病変部を選択的に処置するために、吸収係数が大きい波長のレーザーを用います。418, 542, 577nmに吸収ピークを持つヘモグロビンを考慮し、さらに、到達深度や組織の熱緩和時間を考慮して処置に使用するレーザーが選択されます。例えば、パルス幅が数ns~100nsのルビーレーザー(694nm)、アレキサンドライトレーザー(755nm)、Nd:YAGレーザー(1064nm)が用いられるようです。

このようにハードウエアだけではなく、レーザーの照射時間やパルス幅、パワーの設定などパラメータの設定も重要です。例えば、血管壁へ熱変性を与える場合は、血液中のヘモグロビンへのみ影響を与えるのではなく。血管壁にきちんと影響を与える必要があります。医療応用であっても、パラメータの精密な制御は非常に重要となってきます。

3. 光化学的治療

光感受性の物質を補助剤のように用いて、がんの治療が行われています。生体内の腫瘍に残りやすい性質がある光感受性物質を静脈注射し、その吸収波長のレーザーを病変部に照射することで、がん細胞を選択的に破壊する方法があり、光線力学的治療(PhotoDynamic Therapy)と呼ばれています。

使用する光感受性物質によりますが、UVレーザー(410nm、Kr)が用いられます。また、より深く作用を到達させるために波長の長い色素レーザー(630nm)が用いられることもあります。

ここで見てきた例は多くはありませんが、医療の分野でもレーザーが広く活躍しています。

【応用】レーザーの医学応用(1)

レーザーの生体への作用

レーザーは工業用途のみならず、医学の分野でも用いられています。その応用は、狭義には治療と診断(計測)ですが、広義には光通信や情報の記録、微細加工なども含まれるかもしれません。

ここでは、狭義の治療と診断に絞って、レーザーのどのような特長が、どのように活用されうるかという光学的特性を見ていきます。

まず、医学では扱う対象は生物(生体)です。そのため、生体の光学的特性を見ていきます。生体に強度I0の単色平行光を入射するとき、生体が均一な吸収体であれば、入射位置から深さxの光の強度Iは、吸収係数\(\mu_\alpha\)を用いて、次式であらわされます。

$$ I = I_0 exp(- \mu _\alpha x) $$

しかし、実際には生体内部に様々な物質があり、散乱体とみなした方が良いです。そこで、散乱による減衰係数を\(\mu_s\)として、総合的な減衰係数\(\mu_t\)を用いて光の強度は次のようにあらわされます。

$$ I = I_0 exp(- \mu _t x) $$
$$\mu_t = \mu_\alpha + \mu_s $$

さらに、生体表面での光の反射もあります。その反射率をRとして、光の強度は次のようにあらわされます。

$$ I = I_0 (1-R) exp(- \mu _t x) $$

光がある単一粒子に照射されたとき、その散乱光はあらゆる方向へ進みます。進行方向に対する光の角度を散乱角と定義するとき、その角度が90度より小さい(光が進む方向へ散乱する)ときを前方散乱といいます。反対に90度より大きい(光の進む方向と反対)ときを後方散乱と呼びます。ぞれぞれ、非等方散乱パラメータgを用いて、g=1, g=-1とあらわします。等方散乱の時は、g=0です。一般に、生体内ではg=0.8~0.97と言われています。

この散乱は、一度で終わるものではなく、何度も繰り返し生体内をめぐっていきます(多重散乱)。この光が吸収され熱に変換されたり、生体分子を励起したり、様々な相互作用が起こります。しかも、均一の物質ではないため、複数の減少が複雑に発生することになります。

生体の主成分は水で、約70%と言われています。この水は600nm以下の波長帯で吸収が増大することが知られています。また、生体内にはタンパク質も多く含まれています。このたんぱく質は紫外域で大きな吸収を示します。このように生体での光の波長に対する吸収をプロットすると、700~1500nm付近で吸収が比較的小さくなります。このため、この帯域を「生体の分光学的窓」とも呼ばれています。

このように、生体の場合には、その生成によって光学的な特性が異なります。つまり、組織の種類によるところも多いです。内蔵のような軟組織と歯や骨のような硬組織でも異なります。下の図には、軟組織での光の深達長を光の波長ごとに模式的に示してあります。

【応用】レーザー表面硬化

材料(特に金属)の表面特性を変化させるために局所的な加熱を行うことがあります。その熱源としてレーザーを用いたものが、レーザー表面硬化法(Laser Transformation Hardening)です。

レーザーを材料表面に照射して融点以下まで加熱し、その後、冷却することで材料特性を変化させます。金属の熱による硬化は様々な方法がありますが、レーザーを用いる特徴としては、選択的に一部分のみの加工ができることや、加熱に対して自己冷却が進むため冷却が早いことが挙げられます。

実用的な数mm深さの表面硬化を行うには、出力kW級のレーザーが用いられます。従来は、CO2レーザーがメインでしたが発振波長が10.6μmであり金属への吸収率があまり良くないため、加工効率は良くありませんでした。場合により材料表面に吸収促進剤を塗布するなどの工夫を行っていました。一方、YAGレーザーが実用に近づいてくると光源の置き換えが検討されました。YAGレーザーの波長1.06μmは金属の吸収率が高く表面硬化に適していると考えられました。しかし、半導体レーザーの高出力化が進むと、扱いやすさやコストパフォーマンスの点で利用が進む可能性があります。

レーザー表面硬化は1970年代ごろには、すでに開発が進められていた技術のようです。1990年ごろには、歯車、ピストンリング溝、モーター軸、シリンダライナ、タービンブレードなど多くの工業製品に応用されるようになりました。

2000年に入ると、実用的なkW級の高出力半導体レーザーが入手できるようになりました。半導体レーザーは金属への吸収が良く、ランニングコストが安価でメンテナンスフリー、ファイバーによりレーザーのハンドリングが容易という特徴があり、レーザー表面硬化に有利なため、プロセスの研究開発がさらに進むことになりました。近年は、レーザー光源のさらなる発達により、また、市場のニーズにより利用範囲が広くなっているようです。

R. C. Reedらは、kW級のCWレーザーを用いてビーム形状によって硬化にどのような影響があるかを3種類の金属材料に対して調べています。

レーザー表面硬化は、局所的な表面処理が可能で、自己冷却で効率という点で、レーザーのメリットを活かした加工方法であるといえそうです。