【基本】Arイオンレーザー

Arイオンレーザーは、可視領域で高出力の発振ができるガスレーザーの一つです。特に強い波長は青から緑色の488.0nmと514.5nmにあります。

原理は次のとおりです。Arガスは、イオン化した後にAr+の基底準位が大量に作られ、上準位に励起されます。このように、2段階の励起が起こります(2段階励起)。この反転分布状態から下基底準位に落ちるときに488.0nmと514.5nmの光を発振します。

基本的な構造は、He-Neレーザーと同等ですが、次に示す特徴のため、多少複雑になっています。

Arレーザーは36eV程度と非常に高いエネルギー準位まで励起する必要があるためレーザー管に大電流を流す必要があります。そのため、レーザー管は酸化ベリリウムのような耐熱性、耐イオン衝撃性のすぐれた材料を使用する必要があります。さらに、Arガスが陽極に集まりやすいため外部にガス用のバイパスを設けガスの偏りを低減します。また、ガスの消耗が激しいため補給用のリザーバーを取り付けます。

Arレーザーは空冷式と水冷式があります。空冷式ですと~100mW程度の出力ですが、水冷式ですと~数十W程度の大出力が得られます。

同様の希ガスレーザーとして、クリプトイオンレーザー(Kr+)があります。これは、647mn(赤色)を発振します。構造はArレーザーと基本的に同じですが、ガスをKrに換え、ミラーを赤色対応に換えてあります。

Arレーザーの用途としては、眼科などの医療分野、フォトリソグラフィの光源、高速度カメラの光源、エンターテイメントのレーザービームなどがあります。

【応用】レーザーの医学応用(4)

レーザーを医学の分野への応用としては、治療の他に計測・診断があります。レーザーを使うメリットの一つとして、生体情報のin vivo(生きた状態での)計測があげられます。さらに、病気の診断までできることもあり、optical biopsy(光学生検)と呼ばれ、注目されているそうです。biopsy(生検)は、生体組織を一部採取し、顕微鏡などで精密に調査し、病気の診断をすることを言いますが、レーザーを使った計測では、これを非侵襲にて行うことが可能になります。

1. 近赤外分光計測

近赤外光を使うことで、体内のヘモグロビン酸素化の状態を調べることができます。血液が酸素を多く含む動脈血が鮮やかな赤色であるのに対し、酸素が少ない静脈血は少し暗い色をしています。これは、血液に含まれるヘモグロビンが酸素化されている状態と、脱酸素化されている状態で吸収スペクトルが異なるためです。波長600~800nmの光では、酸素化ヘモグロビンの吸収が小さく鮮やかな赤色となり、800nm以上では脱酸素化ヘモグロビンの吸収が小さくなります。この吸収率の違いにより、ヘモグロビンの酸素化状態を知ることができます。

この原理を応用した計測手法がパルスオキシメーター(酸素モニタリング装置)です。この装置は、発光部と受光部を備えており、受光された光の強度で酸素飽和度(SpO2)を計測することができます。指に挟んで簡単に計測できるものが多く、患者への負担も小さいのが特長です。また、同時に脈拍も測ることができる製品もあります。

2. 蛍光分光計測

蛍光物質を特定の位置へ移動させ、レーザーを照射することにより発生する蛍光を検出することで、その位置を特定することができます。この蛍光画像法は、がん組織や動脈硬化部位の特定に使われています。

蛍光物質の一例としてNPe6があります。これを必要量だけ静脈注射し、一定時間後に計測を行います。NPe6は、腫瘍や脂肪組織に集まりやすい性質があり、病変組織中では664nmの光で励起すると670nmにピークがある蛍光を発します。必要なパワー密度は1mW/cm2程度と非常に少なく半導体レーザーで簡単に励起できます。蛍光状態をCCDカメラなどで観察することで、病変部の像を取得することができます。また、内視鏡と組み合わせることで生体内部の状態を観察することもできます。このNPe6は、数時間程度で排出されるため生体への影響もほとんどありません。

【応用】レーザーの医学応用(3)

レーザー治療

レーザーの医学応用として、治療や計測がありますが、ここでは、治療についてみてみたいと思います。

レーザーの生体への作用は、以下があげられます。

  • 光熱的作用:光が組織に吸収され熱となることで何らかの作用を行うことです。アブレーションなどがありますが、その他にも、熱的な除去、凝固、破壊などがあります。この作用により切開や穿孔、面的な除去を行います。心筋梗塞の心臓に対して貫通穴を開け血液循環を回復したり、血液凝固により組織の接着、止血などの実績があるようです。
  • 光音響作用:光を照射することで発生する高周波の振動を治療に役立てるものです。一例として、結石治療があります。多くは、水の入ったバスに入りスパーク放電などで衝撃波を発生させ、衝撃波により結石を砕きます。この方法を適用できない症状には、レーザーによる治療が行われることがあります。短パルスレーザーによる急速加熱により結石に膨張が起き衝撃波が発生し、その反作用としてさらに結石が破砕されるというものです。
  • 光化学的作用:光を照射することで、化学的に病変部を壊死させたり、活性化することで回復を早めることを指します。低出力のレーザーでは、痛みの緩和や鍼と同等の作用を発生させる場合もあるようです。

このように、レーザーの特性を有効に活用することで、消火器、呼吸器、循環器、泌尿器、眼科、耳鼻科、皮膚科、歯科等の幅広い領域で実用化されています。

1. 眼科治療

1.1 眼底治療

眼科治療のうち、眼底疾患へのレーザー応用は比較的早くから行われたようでようです。疾患としては、網膜症や眼底出血が対象となり、失明の危険もあるだけに重要な治療方法となっているようです。

眼球にコヒーレントな光が入ると、網膜上に集光されます。光が通過する水晶体等は水が主成分ですので、青や緑色の光が高い透過率を持ちます。このため、光源としては、514.5nmのArイオンレーザーが用いられることが多いようです。また、治療内容によっても変えており、例えば血管系はヘモグロビンへの吸収が良い577nmのレーザー、脈絡膜など深部の治療は波長の長い630nmのレーザーが使われているようです。

このように、レーザーが網膜まで到達して集光するという特性を活かして、剥離した網膜組織を加熱して凝固させたり、止血を行います。

1.2 近視治療

近視は、屈折力の低下により網膜に像が結ばなくなる疾患の一つですが、レーザーを応用した近視治療は、角膜を適切に処置することで屈折率を正常に戻すことを指します。屈折を司るのは角膜の他に水晶体がありますが、角膜は空気と接しているためにその影響が大きいため、直接角膜を処理します。

処置は、大きくPRK法とRK法があります。PRK(PhotoRefractive Keratectomy)法は、角膜表面を2次元的に除去して曲率半径を大きくする方法です。RK(Radial Keratotomy)法は、角膜表面に放射状に切り込みを入れいる方法です。近年は、安全性の高いRK法が主流のようです。

レーザー光源は、高品質な加工ができるエキシマレーザー(193nm,ArF)が用いられることが多いです。しかし、近年ではピコ秒レーザーのような超短パルスレーザーも使われるようになってきているようです。

2. 皮膚科治療

皮膚科治療のレーザー応用で多いものが「あざ治療」です。あざは、正常組織中に病変組織ができることで発生します。従来は、外科的に切除したり、ドライアイスなど極低温で凍結壊死させる方法がとられてきました。レーザーでは、選択的に処置を行え、正常組織に損傷を与えないというメリットがあります。

病変部を選択的に処置するために、吸収係数が大きい波長のレーザーを用います。418, 542, 577nmに吸収ピークを持つヘモグロビンを考慮し、さらに、到達深度や組織の熱緩和時間を考慮して処置に使用するレーザーが選択されます。例えば、パルス幅が数ns~100nsのルビーレーザー(694nm)、アレキサンドライトレーザー(755nm)、Nd:YAGレーザー(1064nm)が用いられるようです。

このようにハードウエアだけではなく、レーザーの照射時間やパルス幅、パワーの設定などパラメータの設定も重要です。例えば、血管壁へ熱変性を与える場合は、血液中のヘモグロビンへのみ影響を与えるのではなく。血管壁にきちんと影響を与える必要があります。医療応用であっても、パラメータの精密な制御は非常に重要となってきます。

3. 光化学的治療

光感受性の物質を補助剤のように用いて、がんの治療が行われています。生体内の腫瘍に残りやすい性質がある光感受性物質を静脈注射し、その吸収波長のレーザーを病変部に照射することで、がん細胞を選択的に破壊する方法があり、光線力学的治療(PhotoDynamic Therapy)と呼ばれています。

使用する光感受性物質によりますが、UVレーザー(410nm、Kr)が用いられます。また、より深く作用を到達させるために波長の長い色素レーザー(630nm)が用いられることもあります。

ここで見てきた例は多くはありませんが、医療の分野でもレーザーが広く活躍しています。

【応用】レーザーの医学応用(2)

医学応用の特徴

レーザーを治療や計測など医学に応用することは、近年では広く行われていますが、どのような利点があるのかを、一般的な話として記述してみます。

まず第一として、レーザーの利用条件によりますが生体に過度の損傷(侵襲)がないことがあげられます。太陽光線をはじめ、様々な光の中で人間を含めた生物は生息しています。過度な暴露はガンなどのリスクも伴いますが、一般的には問題なく生活できています。これが、光(レーザー)が人体に対して無侵襲ないし、低侵襲であることの証左です。

第2として、高い集光性があげられます。このことにより、狙った位置に確実に作用させることができます。局所的な治療や、高分解能の計測には、この特長が非常に有効です。一方で、比較的大きな面積について作用させる場合には、レーザーを走査したり、集光度を低くすることが可能です。これは、レーザーのもつ高いエネルギーと直線性によって達成されます。

さらに、第3番目の特徴として、非接触性があげられます。非接触のため、ウイルスや菌などの汚染のリスクを抑えることができます。また、多くの場合、非接触により短時間で作用が済むこともあり、人への負担が少ないという利点もあります。

レーザーの医学応用は、すでに多くの実績がありますが、レーザー応用技術も日々進歩しており、さらなる医学への貢献が期待されます。

【応用】レーザーの医学応用(1)

レーザーの生体への作用

レーザーは工業用途のみならず、医学の分野でも用いられています。その応用は、狭義には治療と診断(計測)ですが、広義には光通信や情報の記録、微細加工なども含まれるかもしれません。

ここでは、狭義の治療と診断に絞って、レーザーのどのような特長が、どのように活用されうるかという光学的特性を見ていきます。

まず、医学では扱う対象は生物(生体)です。そのため、生体の光学的特性を見ていきます。生体に強度I0の単色平行光を入射するとき、生体が均一な吸収体であれば、入射位置から深さxの光の強度Iは、吸収係数\(\mu_\alpha\)を用いて、次式であらわされます。

$$ I = I_0 exp(- \mu _\alpha x) $$

しかし、実際には生体内部に様々な物質があり、散乱体とみなした方が良いです。そこで、散乱による減衰係数を\(\mu_s\)として、総合的な減衰係数\(\mu_t\)を用いて光の強度は次のようにあらわされます。

$$ I = I_0 exp(- \mu _t x) $$
$$\mu_t = \mu_\alpha + \mu_s $$

さらに、生体表面での光の反射もあります。その反射率をRとして、光の強度は次のようにあらわされます。

$$ I = I_0 (1-R) exp(- \mu _t x) $$

光がある単一粒子に照射されたとき、その散乱光はあらゆる方向へ進みます。進行方向に対する光の角度を散乱角と定義するとき、その角度が90度より小さい(光が進む方向へ散乱する)ときを前方散乱といいます。反対に90度より大きい(光の進む方向と反対)ときを後方散乱と呼びます。ぞれぞれ、非等方散乱パラメータgを用いて、g=1, g=-1とあらわします。等方散乱の時は、g=0です。一般に、生体内ではg=0.8~0.97と言われています。

この散乱は、一度で終わるものではなく、何度も繰り返し生体内をめぐっていきます(多重散乱)。この光が吸収され熱に変換されたり、生体分子を励起したり、様々な相互作用が起こります。しかも、均一の物質ではないため、複数の減少が複雑に発生することになります。

生体の主成分は水で、約70%と言われています。この水は600nm以下の波長帯で吸収が増大することが知られています。また、生体内にはタンパク質も多く含まれています。このたんぱく質は紫外域で大きな吸収を示します。このように生体での光の波長に対する吸収をプロットすると、700~1500nm付近で吸収が比較的小さくなります。このため、この帯域を「生体の分光学的窓」とも呼ばれています。

このように、生体の場合には、その生成によって光学的な特性が異なります。つまり、組織の種類によるところも多いです。内蔵のような軟組織と歯や骨のような硬組織でも異なります。下の図には、軟組織での光の深達長を光の波長ごとに模式的に示してあります。