【応用】レーザー表面硬化

材料(特に金属)の表面特性を変化させるために局所的な加熱を行うことがあります。その熱源としてレーザーを用いたものが、レーザー表面硬化法(Laser Transformation Hardening)です。

レーザーを材料表面に照射して融点以下まで加熱し、その後、冷却することで材料特性を変化させます。金属の熱による硬化は様々な方法がありますが、レーザーを用いる特徴としては、選択的に一部分のみの加工ができることや、加熱に対して自己冷却が進むため冷却が早いことが挙げられます。

実用的な数mm深さの表面硬化を行うには、出力kW級のレーザーが用いられます。従来は、CO2レーザーがメインでしたが発振波長が10.6μmであり金属への吸収率があまり良くないため、加工効率は良くありませんでした。場合により材料表面に吸収促進剤を塗布するなどの工夫を行っていました。一方、YAGレーザーが実用に近づいてくると光源の置き換えが検討されました。YAGレーザーの波長1.06μmは金属の吸収率が高く表面硬化に適していると考えられました。しかし、半導体レーザーの高出力化が進むと、扱いやすさやコストパフォーマンスの点で利用が進む可能性があります。

レーザー表面硬化は1970年代ごろには、すでに開発が進められていた技術のようです。1990年ごろには、歯車、ピストンリング溝、モーター軸、シリンダライナ、タービンブレードなど多くの工業製品に応用されるようになりました。

2000年に入ると、実用的なkW級の高出力半導体レーザーが入手できるようになりました。半導体レーザーは金属への吸収が良く、ランニングコストが安価でメンテナンスフリー、ファイバーによりレーザーのハンドリングが容易という特徴があり、レーザー表面硬化に有利なため、プロセスの研究開発がさらに進むことになりました。近年は、レーザー光源のさらなる発達により、また、市場のニーズにより利用範囲が広くなっているようです。

R. C. Reedらは、kW級のCWレーザーを用いてビーム形状によって硬化にどのような影響があるかを3種類の金属材料に対して調べています。

レーザー表面硬化は、局所的な表面処理が可能で、自己冷却で効率という点で、レーザーのメリットを活かした加工方法であるといえそうです。

“偏光(へんこう)”って何?(1)~意外と身近な偏光~

「偏光」という言葉を見たり、聞いたりしたことのある人は、多いのではないでしょうか?
ただ、「偏光って何?」と考えると、いまいちよく分からないという方もいらっしゃるかもしれません。

 そこで、今回は、「偏光」について、ざっくりとした感じで書いていきたいと思います。

「偏光」とは、光の振動方向がある規則性をもって偏った状態の光のことです。
 それに対して、「自然光」は、ありとあらゆる方向に振動しています。
 だから、これを「ランダム偏光」と呼ぶ場合もあります。
 ただ、それでは、「だから偏光って何なの?」という感じがしますよね。

 まず身近にある偏光について例を挙げてみます。
 例えば、次のような経験をしたことはありませんか?
 偏光サングラスをして運転席からカーナビのディスプレイを見てみる。
 すると、変な見え方になった経験とか…

 偏光サングラスをかけたままで、ガソリンスタンドでセルフ給油していた。
 そのとき、液晶画面(金額表示や、給油量など)が見えずらくなった経験とか…。

 なぜ見えずらいことになってしまうのか?
 それは、偏光サングラスをした状態で、偏光した光を見ていたからです。

液晶ディスプレイを通して見えている光は、実は、偏光子を通して眼に入っています。
その光は、偏光しているのです。

もしも、偏光サングラスなどを持っていれば、1秒で偏光を実感できる実験があります。
※結果画像はページ下部に載せています。

まずは、用意するものです。2つ必要です。

  • 「画面が表示されている液晶ディスプレイ」
    スマホでも、パソコンでも、テレビでも、要は液晶ディスプレイならば何でもOKです。
    ただ、プラズマテレビではダメです。偏光してませんから。
    表示させるものは、静止画でも動画でもなんでも構いません。
  • 「偏光サングラス」
    必ずしも偏光サングラスでなくても構いません。
    偏光子、あるいは、“偏光子のようなもの”であれば、何でも構いません。(そのようなものを持っていない人は残念ながら、この実験ができませんが、大丈夫です。結果の画像は、このページ下部にあります。)

準備は、これで終わりです。

さて、これから実験です。手順は4つです。

  1. 液晶ディスプレイを見ます。
     このページを見ていただいている時点で、液晶ディスプレイを見ている状態かもしれませんね。

2. 自分の両手で偏光サングラスを持ちます。

3. その偏光サングラスを自分の眼と液晶ディスプレイの間にもってきて、ディスプレイと大体平行になるように持ちます。

4. 3の状態から、偏光サングラスを液晶ディスプレイと平行に、クルマのハンドルを回すように回転させます。
 ※右回りでも左回りでもOKです。

すると、液晶ディスプレイが見える角度と見えなくなる角度があることに気が付くはずです。ほとんどの場合、90度回す度に、“見えない状態”⇔“見える状態”が繰り返されるはずです。おもしろくないですか?
普通の眼鏡レンズではこのようなことにはなりません。

 更に、光の反射がからむとどうなるか?
 などが絡んでくると長文になりますので、それは、またの機会に。

★実験結果★

 ページ下部の2枚の画像は、偏光サングラスを通して、液晶ディスプレイ画面を見ている様子を撮影したものです。

※茶色に着色された偏光サングラスで見ています。その為、サングラスを通してディスプレイを見ると茶色っぽく着色して見えています。その点は、重要ではないので、気にしないでください。

 左と右の画像では、サングラスが大体90度回転しています。
ディスプレイの額縁とサングラスのフレームの位置関係から、ほぼ90度回転していることが、見てとれるかと思います。

 右下の画像では、液晶ディスプレイがほとんど見えなくなっていますね。
※色の濃さの異なる別々のサングラスを使っているわけではありません。

 これは、ディスプレイの偏光方向とサングラスが透過できる偏光の角度が、光が透過できない位置関係になっている為です。

 光の透過具合は、偏光サングラス(偏光レンズ)の品質(偏光度合など)で多少の差はあると思いますが、光の透過量の違いは明確に感じられると思います。

液晶ディスプレイが、偏光サングラスを透過して見えている。液晶ディスプレイからの発光が遮られている。右側の画像よりも偏光サングラスが約90度回転している。

【応用】光ピンセット

光ピンセットは、光の力学的な作用を利用して、物体をマニピュレーションする方法ないし、装置です。操作する対象は主に液体内にある光に対して(ほぼ)透過なマイクロメートルオーダーの物体です。稀に空気中で微小物体を操作する研究も見受けられます。

光ピンセットは、被操作物体に集光光を当て、その力学的な作用である放射圧(光圧)によって、操作する技術です。

この放射圧は、17世紀にニュートンによって予測され、19世紀にマクスウエルによって定式化され、レーザーが実用化されてきたことにより、この微小な力の研究と応用が進められてきました。

主となる応用分野は、生物学です。微生物や細胞の操作などに広く使われるようになってきているようです。

光によって発生する力「光圧」は、電磁波中の誘電体に生じる双極子によって起こる電磁界の歪から計算することができます。電磁界のもつ単位体積当たりの運動量Pは、ポインティングベクトルS,物質中の光の速さvを用いて、次式であらわされます。

$$ P = \frac{S}{ v^2 }$$

力学的な力Fは、運動量の変化によって生じますので、次式で求められることになります。

$$ F = \frac{\Delta P}{ \Delta t} $$

これらより、光の入射強度をIとすると、力は次の式で表されます。

$$ F = \frac{QIn}{c} $$

ここで、nは粒子の屈折率、cは真空中の光の速さ、Qは運動量の変化の度合いに対応する無次元の定数(0~2)で効率をみなせます。

照射する光の波長が被操作対象に対して大きいか小さいかで力の発生原理が異なります。対象が波長より大きい場合はMie散乱領域として扱われ、小さい場合はRayleigh散乱領域として扱われます。

被操作対象が、光が照射されると反射・透過を何度も繰り返します。そのそれぞれの光線が力を発生させます。下図のように、光強度Iの光線が被操作対象に角度Θで入射したときの散乱力と勾配力を考えます。被操作対象が光の波長より大きいとして幾何光学的に散乱力Fsと勾配力Fgを求めると次式であらわされます。

$$ F_\xi = F_s = \frac{n_1 I}{c}\left[ 1 + R \cos 2 \theta – \frac{T^2 \{ \cos (2 \theta – 2 r) + R \cos 2 \theta \}}{1 + R^2 + 2 R \cos 2 r} \right]$$
$$ F_\eta = F_g = \frac{n_1 I}{c}\left[ R \sin 2 \theta – \frac{T^2 { \sin (2 \theta – 2 r) + R \sin 2 \theta }}{1 + R^2 + 2 R \cos 2 r} \right]$$

ここで、被操作対象の屈折率がn1、反射係数がR、透過率がTです。

全光線についての力を足し合わせることで被操作対象に働く力を求めることができます。この式をグラフ化するとわかるのですが、入射光線の進行方向と反対方向への力を発生することもできます。

光ピンセットの例としては、1064nmのNd:YAGレーザー145mWを対物レンズ(×100、NA=1.3)で集光させエチレングリコール内の直径1μmのポリスチレン微粒子をトラップした例などがあります。

Arthur Ashkinは、この研究成果により、2018年にノーベル物理学賞を受賞しています。

【応用】リップル

レーザーで材料(特に金属)を加工するときに、微細なさざ波形状の模様(リップル: ripple)ができることがあります。周期としては、使用したレーザーの波長程度で、深さはレーザーの強度によりますがサブミクロン程度のほぼ規則的な凹凸で、いわゆるグレーティングに近いものです。この現象は、直線偏光のレーザーを使用したときに観察され、その偏光方向やレーザー走査方向によって形成される構造が変化します。

これは、レーザーによって被照射材料の表面粗さによって励起された表面電磁波と入射レーザーとの干渉によるものと考えられています。

グレーティングの空間周期\(\delta_s\)は、励起された表面電磁波の波数をks、入射レーザーの波数をk0として、レーザー入射角度をΘとすると、以下のように表されます。

$$ \delta_s = \frac{2 \pi}{k_s \pm k_0 \sin \theta} $$

レーザーを適切に制御することで、このようなリップルを形成でき、写真のように虹色に光る模様を作ることもできます。

より実用的には、この技術を使って量子ドットを作る研究もなされています。こちらは、より高精度に加工するために2ビーム干渉により材料表面をエッチングしています。