太陽光をプリズムを使って分光すると、特定の波長で暗い線が見られます。そのうち、特にはっきりと見える暗線のことをフラウンホーファー線と呼ばれています。
イギリスのウォラストンが1802年に発見しました。その12年後にドイツのフラウンホーファーが独立に数百本の暗線を発見し、長波長側からアルファベットの大文字でAから順に記号を付けて表しました。
記号 | 元素 | 波長 nm |
A B C D1 D2 D3 E2 F G G H | 酸素 酸素 水素 ナトリウム ナトリウム ヘリウム 鉄 水素 鉄 カルシウム カルシウム | 759.370 686.719 656.281 589.594 588.997 587.565 527.039 486.134 430.790 430.774 396.847 |
その約50年後には、ドイツのブンゼンとキルヒホフが炎色反応の光に2つの波長589.0nmと589.6nmがあり、フラウンホーファー線のD2とD1とそれぞれ一致することを発見しました。
20世紀にはいると、量子力学の進展により、これらの波長が原子の中の電子軌道の変化によるものであることが発見されました。原子中の電子のエネルギー準位の高い軌道から低い軌道へ落ちるときの発光に起因するものであることが分かりました。
太陽は約6000度の高温のため、ナトリウムが気体として存在しています。このナトリウムによって吸収された光が地球に到達したとき、暗線として観察されるわけです。フラウンホーファー線の波長は、原子の軌道間のエネルギー差のみによって決まり、外界の影響を受けないので、波長の同定に用いられます。
天体物理学においては、恒星から届く光のスペクトラムを測定し、赤方偏移によるフラウンホーファー線のずれを調べることで太陽系と恒星の距離を推定することができます。また、フラウンホーファー線の有無から元素の有無を推定できます。