【基本】モデルによる加工結果の予測

1. 加工結果の予測

レーザー加工には多くのパラメータ(変数)が影響します。例えば、穴加工を例にすると、レーザーのパワーを増大させると穴直径が大きくなったとします。レーザーのパワーという変数\(x\)を変動させながら、穴直径という変数\(y\)を測定すると、両者にはある関係が見えてきます。この関係を数式(モデル)\(y=f(x)\)で表すことで、ある変数\(x\)(レーザーパワー)での穴直径\(y\)という加工結果を予測できます。

結果を説明する方の変数\(x\)を説明変数(独立変数、予測変数)、説明される方の変数\(y\)を被説明変数(従属変数、目的変数、応答変数)と呼ばれます。

モデル化には様々な種類や方法がありますが、ここでは最も簡単な1つの説明変数\(x\)による単回帰分析を行いたいと思います。

これがさらに進んでいくと、重回帰分析やAI(機械学習)につながっていくことになります。

2. モデル化と予測

2.1 データ

次のような仮想のデータを考えます。変数\(x\)に対して変数\(y\)の関係が次のように10点得られたとします。

X =  1  2  3  4  5  6  7  8  9 10
y = 6.8  6.8  9.7 11.3 11.4 16.6 16.0 17.2 20.3 24.8

これをプロットすると下図のようになります。

何となく1つの直線が描けそうです。この直線をどのように描くと最も良いでしょうか?考え方はいくつかあります。それを次から見ていきます。

2.2 単回帰分析(最小二乗法)

単回帰分析は、一つの説明変数\(x\)と一つの目的変数\(y\)の関係を1次式で表したものです。$$ y=a + bx $$というように、2つの変数の関係が直線で表されます。求める値は、\(a, b\)となります。

このモデルの最も代表的な求め方は最小二乗法で、次のように\(a, b\)を求めます。

観測値の実際の値\(y_i\)と回帰直線から得られる\( \hat{y_i} \)の差(残差\(e_i\))の平方和を考えます。残差平方和は、$$ \sum^{n}_{i=1} e_i = \sum^{n}_{i=1} (y_i – \hat{y_i})^2 = \sum^{n}_{i=1} \{ y_i – (\hat{a} + \hat{b} x_i) \}^2 $$で表されます。この残差平方和を最小にする\(a, b\)を求めることが目的です。

残差平方和を\( \hat{a}, \hat{b}\)の関数としてみたとき、2次式となりますから、最小となるのは、それぞれの変数で偏微分した値が0となるときです。このことを考慮しますと、次の連立1次方程式が得られます。
$$ n \hat{a} + \hat{b} \sum x_i = \sum y_i$$
$$ \hat{a} \sum x_i + \hat{b} \sum x^2_i = \sum x_i y_i $$

これを解くことで、
$$ \hat{b} = \frac{ \sum (y_i – \bar{y})(x_i – \bar{x_i})}{ \sum(x_i – \bar{x})^2 } $$
$$ \hat{a} = \bar{y} – \hat{b} \bar{x} $$
が求まります。

R言語を用いると下記のように簡単に計算できます。

x<-c(1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10)
y<-c(6.8, 6.8, 9.7, 11.3, 11.4, 16.6, 16.0, 17.2, 20.3, 24.8)
dat <- data.frame(x=x, y=y)
lm.model <- lm(y~x, dat)
summary(lm.model)
> summary(lm.model)

Call:
lm(formula = y ~ x, data = dat)

Residuals:
    Min      1Q  Median      3Q     Max 
-1.7406 -0.8647 -0.1888  1.0301  2.1654 

Coefficients:
            Estimate Std. Error t value Pr(>|t|)    
(Intercept)   3.6467     0.9668   3.772  0.00545 ** 
x             1.8988     0.1558  12.186 1.91e-06 ***
---
Signif. codes:  0 ‘***’ 0.001 ‘**’ 0.01 ‘*’ 0.05 ‘.’ 0.1 ‘ ’ 1

Residual standard error: 1.415 on 8 degrees of freedom
Multiple R-squared:  0.9489,	Adjusted R-squared:  0.9425 
F-statistic: 148.5 on 1 and 8 DF,  p-value: 1.906e-06

結果で表示されるCoefficients : Estimate Stdが求める値です。
この場合、
$$ a=3.6467$$
$$ b= 1.8988 $$
ですので、
$$ y = 3.6467 + 1.8988 x $$が求めたモデルになります。プロットとモデルを表示すると下図の通りとなり、それらしい直線になっていることがわかります。

このように求めたモデルから加工結果の予測ができます。例えば、\(x=11\)の場合、穴直径は\(y=24.5335\)と予測されます。

2.3 回帰分析(ガウス過程回帰)

今度は、前節とは別の方法で回帰直線を求めてみます。この方法はガウスによって発明されました。実はこの方法も考え方は最小二乗法なのですが、行列式を使って解くところがポイントとなります。詳細は、省きますが、連立方程式を行列とベクトルを用いて$$ Y = XW $$と表されるとき、求めたいベクトルWは次の式で求められます。$$ W = (X^T X)^{-1} X^T Y $$ただし、\(X^T\)は転置行列、\(X^{-1}\)は逆行列です。

今回の例を用いて、もう少し具体的に記します。求めたいモデル$$ y = a + b x $$は次のようにベクトルで表すことができます。$$ y = \left( \begin{array}{rr} 1 & x \end{array} \right) \left( \begin{array}{c}a \\ b \end{array} \right) $$

ここで、$$ Y=y, X=\left( \begin{array}{rr} 1 & x \end{array} \right) , W = \left( \begin{array}{c} a \\ b \end{array} \right) $$とすることで、Wを求めることができます。

では、具体的にRを使って解いてみます。

x<-c(1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10)
y<-c(6.8, 6.8, 9.7, 11.3, 11.4, 16.6, 16.0, 17.2, 20.3, 24.8)

dat <- data.frame(c(rep(1, length(x))), x)
xx <- as.matrix(dat)

t_xx <- t(xx)
ans <- solve(t_xx %*% xx) %*% t_xx %*% y
ans %*% y
ans
> ans
                         [,1]
c.rep.1..length.x... 3.646667
x                    1.898788

前節と同じように、$$ a= 3.6467, b=1.8988 $$と求められました。この方法の素晴らしいところは、モデルが1次式でなくても解くことができる点です。

3. 終わりに

実験結果のモデル化のため、回帰分析を行ってみました。単回帰分析によりパラメータを変化させたときの加工結果を求められることを示しました。このようにモデル化することで、未知のパラメータについての加工結果の見通しが立つようになりますので、非常に有効な手段です。さらに進めると機械学習へ発展できます。

【応用】エリプソメータ

光を利用した顕微鏡には、位相差顕微鏡、微分干渉顕微鏡、ラマン顕微鏡、共焦点顕微鏡、蛍光顕微鏡などがあります。これらは、照明光を落射や透過させて用います。

斜めに照明光を照射する顕微鏡にエリプソメータがあります。これは、被測定物の膜の厚さや光学特性(屈折率等)を測定するものです。膜への光の反射と透過光を検出して測定しますので、被測定物は十分に薄く(サブミクロン)面粗さが良い必要があります。また、最下層の基板は一般には光を通さない方が好ましいです。したがって、測定できる膜厚もサブミクロンレベルとなります。

エリプソメータの構造は、レーザー光が偏光子、補償子を通り被測定物へ入射します。その反射光は検光子を通り検出器で検出されます。レーザーの入射角は一般にブリュースター角に設定されます。

原理は、被測定物に斜めにレーザー(直線偏光)を照射し、その反射光を検出器にて検出することで物性値を求めます。反射光は、被測定物により円偏光、楕円偏光や直線偏光となります。媒質1から媒質3へ反射光のp偏光成分rとs偏光成分の振幅反射率rを用いると、次の関係が成り立ちます。
$$ r_p =  \frac{N_3 \cos{ \theta_1} – N_1 \cos{ \theta_3} }{N_3 \cos{ \theta_1} + N_1 \cos{ \theta_3}} $$
$$ r_s =  \frac{N_1 \cos{ \theta_1} – N_3 \cos{ \theta_3} }{N_1 \cos{ \theta_1} + N_3 \cos{ \theta_3}} $$
$$ \tan{\psi} e^{i \Delta} = \frac{r_p}{r_s} $$
ここで、\(\psi, \Delta\)は、エリプソメータパラメータと呼ばれ、このパラメータを求めることで、被想定物の膜厚や光学特性を算出します。Nは複素屈折率であり、N=n-ik(n:屈折率、k:消衰係数)です。

検出器で検出される光強度Iは、補償子の回転角Θcによって、次のように変化します。
$$ I = I_0 (a_0 + a_2 \cos{2 \theta_c} + b_2 \sin{ 2 \theta_c} + a_4 \cos{4 \theta_c } + b_4 \sin{4 \theta_c} ) $$

検出器で検出されるこの光強度信号から、フーリエ級数ai, bi (i=2, 4)を求め、次の式からエリプソメータパラメータを算出します。
$$ \Delta = \tan^{-1} \frac{\sin^2{ \frac {\delta}{2} \sqrt {a^2_2 + b^2_2}}}{\sin{ \delta (-a^2_4 \sin {2P} + b^2_4 \cos{2P}) }} $$
$$ \psi = \frac{1}{2} \tan^{-1} \frac{\sqrt{\sin^2 { \delta (-a_4 \sin{2P} + b_4 \cos{2P})^2 + \sin^4 {\frac{\delta}{2} (a^2_2 + b^2_2)}}}}{\sin {2A} \sin{\delta \{ \sin^2{\frac{\delta}{2} \cos{2A} – (a_4 \cos{2P} + b_4 \sin{2P})} \}}} $$
ただし、$$ 0 \circ \leq \Delta \leq 360 \circ $$
$$ 0 \circ \leq \psi \leq 90 \circ $$ です。ここで、P,A,\(\delta\)はそれぞれ偏光子と検光子の角度および補償子のリタデーションです。

信号は波長依存性がありますから、レーザーの波長を変えながらエリプソメータパラメータを取得し、コーシーモデルなどの複素屈折率の波長分散モデルへのフィッティング解析を行い、膜厚と複素屈折率を求めます。

【応用】レーザーマーキング

レーザーによって、様々な材料へのマーキングが行われています。レーザーマーキングは非常に多く使われているレーザーの応用の一つです。このマーキングとは、材料に幾何学的な印をつけることのみを指すのではなく、文字や模様、意匠性の高い印も含まれます。

一般にマーキングは、レーザーマーカーと呼ばれる装置で加工がおこなわれますが、原理的には我々が使用している加工機と同じです。レーザーを集光させ、材料に変質・改質を与え、他の部分とは異なる状態とすることで、人の目などに印として認識されるわけです。

普及しているレーザーマーカーは、COレーザーやYAGレーザー、半導体レーザーが使われることが多いです。長年の技術の蓄積があり安定して動作することとメンテナンスや価格など経済的なメリットが大きいためです。

マーキングをするためには、レーザースポットを加工物に対して相対的に移動させる必要があります。この方法の一つとしては、レーザー光路の途中に2枚の鏡を置き、その鏡の角度を変更することでスポット位置を変える方法があります。この2枚の鏡とその制御機構を含めた部分をユニット化してガルバノスキャナーとして実用化されています。
また、集光レンズを加工物に対して2次元的に移動させる、いわば、プロッターのような方法もあります。構造が簡易であり、走査範囲も比較的広くとることができますので、安価なレーザーマーカーが多く採用しているようです。

レーザーマーカーへ、どのようなマーキングをするのかデータを入力する必要があります。データの形式は、各レーザーマーカーの仕様によりますが、テキストデータや、ラスターデータ、ベクトルデータなど描画データ、もしくは独自のデータ形式があります。レーザーマーカーには、各データを編集できるソフトウエアが付属している場合が多いです。

加工対象物も多岐にわたります。基本的にレーザーで変色・変質できる物質には広く応用できます。木材へのマーキングや、飲料ボトルパッケージへのバーコード印刷、金属への製造番号マーキング、玩具やお菓子までマーキングしています。

多くのマーキングは材料表面へのマーキングですが、レーザー波長に対して透明な材料へは材料内部へ直接マーキングすることも可能です。例えば、ガラス内部を変質させることで光の透過性を変更させることも可能です。これにより、透明なガラスの内部に文字や絵が浮かんで見えます。このような内部マーキングはゴミ等を嫌う工業用途でも積極的に利用されています。

レーザーでは、微細に正確に高速にマーキングできますから、今後も利用範囲は広まっていくものと思われます。

【基本】装置の性能維持

1. 装置の性能維持のために

長期にわたり安定した加工を行うためには、装置の性能維持が不可欠です。性能を確認する方法や基準は様々あると思います。弊社が得意としているのは、レーザー微細加工ですので、加工結果を評価して装置が正常に稼働しているか評価することは理にかなっていると思います。

加工結果から装置の性能維持を確認する方法としては、例えば、ある時期に加工した結果を記録しておき、その後、修理やメンテナンス後に同じ条件で加工して同じ結果が得られるかを確認する方法があります。

では、得られたデータから装置の性能が維持されているかどうかをどのように評価すれば良いでしょうか?

一つの方法は、統計的に評価する方法です。検定することにより確認する方法を以下に記します。統計的な計算にはR言語を使用します。

2. 評価

2.1 データ

ある時点で、ステンレス板へ直径φ100μmの貫通穴を40穴加工したとします。その加工穴の直径を全て測定すると、以下のdat0というデータが得られたとします。

> dat0
 [1]  99.29  94.97 100.78 101.17 101.78  91.89 101.10 101.55  92.89 104.78 103.92 111.50 100.78 100.23 100.48 100.35
[17]  90.76  91.64  99.61  97.09 100.27  89.44  92.51  94.49 104.93  94.51  96.00 100.40  98.39 100.73 111.53  94.38
[33]  98.47  97.42 107.56  96.15  99.59 103.94  94.71 108.28

その後、装置をメンテンナンスしました。従来と全く同じ条件で同じようにステンレス板へ直径Φ100μmの穴加工を40回行いました。その測定結果が、dat1として得られました。

> dat1
 [1] 107.55  97.05 106.23 102.22 105.38 102.96 109.92  95.39 100.36 102.00  97.53  97.26 103.39 102.71  88.20 109.74
[17] 105.00 118.00 107.61 100.82 120.28 120.49  96.19 106.31 102.23 104.62 104.87  95.93 105.21 114.00 102.52 102.52
[33] 111.89 108.89  93.61 104.87 113.42 111.99 106.02 107.83

結果をヒストグラムで確認してみます。

library(tidyverse)
library(ggplot2)
library(reshape2)
dat <- data.frame(dat0, dat1)
dat %>% melt() %>% 
  ggplot() + 
  geom_histogram(aes(x=value, fill=variable))  

性能が維持できているかどうかは、加工穴の平均直径が2回の加工結果でほぼ同じであると言えればよさそうです。ヒストグラムから、何となく2つの結果が似ているように見えます。性能は維持できていそうです。

より正確に評価するために、この2つのデータdat0, dat1から、メンテナンス後の装置が従来と同じ性能を維持しているか見てみます。

2.2 正規性の確認

検定を行うためには、データが正規分布しているかどうかが重要です。これにより検定方法が変わってきます。正規性の確認は、シャピロ・ウィルク検定で行います。

> shapiro.test(dat0)

	Shapiro-Wilk normality test

data:  dat0
W = 0.9765, p-value = 0.5618

> shapiro.test(dat1)

	Shapiro-Wilk normality test

data:  dat1
W = 0.97739, p-value = 0.5935

p値(p-value)を見ますと、0.05以上ですので、帰無仮説(H0:正規分布している)が棄却されなかったことになります。つまり、dat0, dat1とも正規分布しているとしてよさそうです。

2.3 等分散の確認

2つのデータは同じ分散であるか調べます。等分散の検定はF検定です。

> var.test(dat0, dat1)

	F test to compare two variances

data:  dat0 and dat1
F = 0.57319, num df = 39, denom df = 39, p-value = 0.0862
alternative hypothesis: true ratio of variances is not equal to 1
95 percent confidence interval:
 0.3031598 1.0837410
sample estimates:
ratio of variances 
         0.5731899 

p値が0.05以上ですので、帰無仮説(H0:等分散である)は棄却されませんので、2つのデータは同じ分散であると言えます。

2.4 t検定

前節で等分散であることが分かりましたので、t検定(スチューデントのt検定)を行います。等分散でない場合にはWelchの検定を行うことになります。

> t.test(dat0, dat1, var.equal = TRUE)

	Two Sample t-test

data:  dat0 and dat1
t = -4.0146, df = 78, p-value = 0.0001359
alternative hypothesis: true difference in means is not equal to 0
95 percent confidence interval:
 -8.330322 -2.807178
sample estimates:
mean of x mean of y 
  99.2565  104.8252 

p値が0.05以下ですので、この結果、帰無仮説(H0:2つの平均値データに差がある)が棄却され2つのデータに差がない、つまり同じ加工条件で加工した場合、装置は同じ加工結果を得られたことになります。よって、装置の性能は維持できていると言えそうです。

3. まとめ

検定という統計手法を用いることで、装置の性能維持ができていることを確かめる方法を見てきました。評価方法は様々ありますが、加工機ですから加工結果で性能を評価することが最も重要ではないでしょうか。

熱影響が少ない加工ができる理由 ~非熱加工についてざっくり言うと~

弊社ホームページに“非熱加工”という言葉がありますが、その点についてざっくりと御説明します。

結論から言うと、

【レーザーで加工した場所(レーザービームスポット径+α)から、加工したくない場所に熱影響が伝わるよりも前に、加工が終わるから。】

です。以下で、その理由について、日常的な例を交えて、御説明します。

日常生活の中には、非熱加工が起きる場面は、まず無いと思いますので、分かりにくいかもしれません。ただ、強いて例えるならば、次のような例で例えることができます。

キッチンで、熱湯の入っている鍋ややかんに、ほんの一瞬、指を触れたときは、「熱さ」はほとんど感じないと思います。しかし、1~2秒程度、指で触れ続けたら「アツッ!!」となって、慌てて指を離すと思います。下手をすると、火傷してしまいますね。

この関係は、鍋ややかんの【熱】と自分の【指】と、それらが触れ合ってる【時間】の長さの関係性で説明できます。つまり、【指】が【熱(源)】に触れている【時間】の長短で、熱さを感じたり、ほとんど感じなかったりするわけです。

レーザー加工で非熱加工というのは、レーザー【光】と材料【物質】と、その両者が影響しあっている【時間】の長さと大きな関係があります。

つまり、一瞬だけ熱い鍋に触れても、ほとんど熱さを感じないように、物質も“一瞬”だけレーザー光に照射されただけだと、レーザー光に影響される部分(≒加工される部分)は、極限られれた領域(レーザービームスポット径+α)になるのです。

そして、そのような、熱の影響が周囲に伝わらない程度の時間というのが、大体ピコ秒(10のマイナス12乗 秒)程度なのです。ただし、金属や、樹脂、ガラスなど材料によってその影響は異なってきます。

私たちがレーザー加工に使用しているレーザーは、1パルスの時間が、およそピコ秒程度なので、加工材料にほとんど熱影響を与えるほどの時間が経過する前に加工が終わってしまうので、所謂【非熱加工】ができるのです。

ここで、ちょっと“パルス”という言葉が出てきましたが、そのことについてはまた別の機会に。

【応用】マイケルソン干渉計

レーザーを用いた応用の一つにマイケルソン干渉計があります。これは、かつて光の媒質として考えられていたエーテルを検出するために,マイケルソンが発明したものです。

原理は、図の通り、レーザー源からの光がビームスプリッタBSで2つの光路に分けられ、それぞれミラーM1とミラーM2に向かいます。光は、ミラーで反射し2つの光がBSで合わさりスクリーンもしくはフォトディテクタで検出されます。

BSで分けられた2つの光の光路の差により干渉縞が発生し、それがスクリーンで検出されます。例えば、ミラーM2がΔxだけ変位すると、干渉縞の数mと光の波長λの間に次のような関係が成り立ちます。

$$ 2 \Delta x = m \lambda $$

光の波長λが一定であるとするなら、干渉縞の数mを数えることでミラーM2の変位Δxを求めることができます。

多くの場合、光源としてHe-Neレーザー(波長632.8 nm)が用いられます。また、ミラーの変位に応じて発生する縞の変化は、内挿することでさらに細かい変位を求めることができます。干渉縞はフォトディテクタで検出され増幅後にAD変換されコンピュータなどの取り込まれ処理されます。AD変換の精度にもよりますが、16bitでAD変換すると、Δxは、

$$ 632.8 / 2^{16} / 2 = 0.005 nm $$

の分解能で検出できることになります。実際の精度は、装置のS/N比や光源の安定性のため、これほど高めることは難しいですが、それでもサブnmの精度で変位を測定できることになります。

マイケルソン干渉計は、すでに産業用途として実用化されており、微小な変位を高精度に測定する必要があるとき等に用いられています。2つのビームにより得られる2つの変位の差分から角度の検出にも用いられています。

また、光路差は屈折率の変化でも発生します。この現象を利用して屈折率を測定するためにマイケルソン干渉計の原理が使われることもあります。

【応用】レーザー冷却

レーザーは物質にエネルギーを与え、温度を上昇させるものですが、なんと冷却もできます。レーザー冷却という技術です。

具体的には、レーザー光を利用して原子の運動エネルギーを減少させる、つまり原子の速度が遅くなりますので、原子の温度が下がるということです。ただし、代表的な冷却冷媒である液体ヘリウムと異なり、気体のまま絶対零度近くまで冷やすことができます。実際は、10nKまで到達しているそうです。これは、原子などが完全に静止する絶対零度(-273.15℃)にかなり近い温度です。

原子や分子は光を吸収すると、エネルギー\(E = h \nu\)を受け取ります。この時、力(光圧)を進行方向に受けることになります。これにより原子や分子の速度が減速されるわけです。

実際には、気体原子を、その原子の吸収波長の中心から少し長い波長の光を当てます。レーザー光の吸収は、レーザーの光子と衝突して光のエネルギーが原子に移ることです。つまり、少し波長の長いレーザー光を原子にぶつけると、原子との正面衝突を繰り返し原子の速度が遅くなります。これがレーザー冷却の原理です。

この技術の応用例の一つに原子やイオンの観察があります。原子やイオンが長時間停止しているので、その内部構造を超精密に観測できるようになりました。

また、原子時計にもこの技術が使われ、精度が現在より2桁以上向上すると期待されています。

さらなる応用としては、量子性の研究(ボーズ・アインシュタイン凝縮や量子コンピュータ)が進められています。

この技術は、パワーが強く安定して連続発振できるレーザーの出現によってはじめて実用化されました。今後もレーザーの幅広い応用に期待があつまります。

【基本】反射防止コーティング

光がレンズに境界面へ入射するときに、反射が起こります。一般に反射率は数%と言われ、光そのものを利用するアプリケーションでは損失となります。レーザー加工機のような複数のレンズ等の光学部品を使用する場合、各境界面でこの損失がおこり合計すると大きな損失となります。また、光が逆方向など予期せぬ方向に進んだり、ゴーストを発生させるという問題もあります。

この反射を防ぐために反射防止(AR)コーティングを施したレンズを使用します。この反射防止の性能は、使用する光の波長や入射角によって異なります。レーザーの場合、単一波長ですので、その波長での特性を考慮すれば良いですが、複数の波長の光を使用する場合には特に注意が必要です。

コーティング材料は、さまざまありますが、最もシンプルで広く使われているのは、フッ化マグネシウム(MgF2)の単層膜で、中心波長550nmで比較的広帯域での利用が可能です。

【応用】長さの基準

日常生活の中でも、長さを正確に測り知ることは非常に重要です。この長さの基準は世界的に決められており、その決め方も技術の進歩によって変遷してきました。1960年までは、白金-イリジウム合金製のメートル原器が、1983年まではクリプトンランプの放射する特定波長を基準として長さの基準が決められてきました。その後、ヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザーが基準として採用されています。

長さの単位である「メートル」は「光が真空中に2億9979万2458分の1秒のあいだに進む距離」と1983年の改定時に定義されました。つまり、時間と距離を正確に知る必要があります。時間は、原子時計で非常に正確に測定されます。長さは光波干渉法により測定されますが、その基準にヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザー(波長633nm)が用いられます。このレーザーが使われている理由は、波長の安定度・確度が良好であり、小型で操作性に優れるからです。また、現在測長用干渉光源として多くはヘリウムネオンレーザーが用いられており、この校正のためにも好都合という理由があります。

ヨウ素安定化レーザーは、基本的に鏡2枚を対向させた共振器内にヘリウムネオンのレーザー増幅管に加え、ヨウ素分子を封入した吸収セルを置く構造となっています。筐体は、アルミ円筒で作られていますが、重要な部分(鏡の間隔を制御する部分)はスーパーインバーで作られています。全体の長さは40cm程度と非常にコンパクトになっています。

一般的に、レーザーは波長変化に対し出力変化はなだらかに変化しますが、ヨウ素安定化レーザーの場合、ヨウ素分子の吸収変化のあるところで微妙に急峻な変化をします。これを一定に制御することで、波長精度の極めて高いレーザー光を実現しています。このレーザーの確度(再現性)は、10-11以上であり、鏡の間隔30cmを0.000000003mm(原子直径の1/100程度)以下の精度で制御することに相当します。これを実現するために、圧電素子が使用されています。

この長さの基準となるレーザーは、産総研(旧計量研)が管理しています。1997年には、世界の基準との相互比較が行われ2×10-11の精度で波長が一致していることが確かめられました。このように、7桁の精度しかなかった白金-イリジウム合金のメートル原器、9桁の精度のクリプトンランプを経て、11桁の精度で長さの基準が管理されるようになりました。

【基本】光学ガラス

レーザーなど光学機器に使用するレンズは、様々な特徴がある特殊なガラスで作られており、光学ガラスと呼ばれています。その性質を順に見ていきます。

1.均質性

ガラスで良く見られるのは、窓ガラスや食器類ですが、この材料で光学機器を作ってもうまくいきません。それは、このガラスが均質にできておらず光が真っすぐに進まないためです。ガラス内部に屈折率が異なる部分があると、光は屈折率の高い方に曲げられてしまいます。実用上は、使用する光の波長の1/4以下であれば均質とみなすようです。このような屈折率のムラは脈理(みゃくり)と呼ばれています。また、粒状のムラだったり、周期的なムラの場合もあります。このようは不具合は、干渉計等によって検査されます。例えば、BK7という広く使用されている光学ガラスは、屈折率1.5168に対し、±0.000005というわずかなばらつきに抑えられています。

2.透明性

透明性は透過率で評価されます。これは、光が媒体を透過する際に吸収される量と吸収されずに透過する量の比で表されます。透過率Dは、測定される光透過率で、媒体外表面での反射損失を含んでいます。垂直入射光線の一表面における反射損失をR,吸収係数をk,媒質厚さをdとすると、透過率Dは以下のように表されます。

$$ D = \frac{1-R}{1+R} 10^{-kd} $$

ここで、$$ T = 10^{-kd} $$は内部透過率と言われ、反射損失を除いた透過率です。このように反射損失がありますので、透過率Dは100%にはなりません。

複数のレンズを組み合わせて使う光学系では、レンズ全体で光学ガラス部が厚くなる場合もあります。ですから、レンズによる光の吸収により像が暗くならないように透明性が求められます。例えば、BK7の場合、100mmの厚さでも光の吸収は1.6%程度しかありません。一般に、クラウンガラスはフリントガラスより透過率が優れているようです。またフリントガラスは高い反射損失がある場合がありますので、反射防止コーティングを用いる必要もあります。

また、波長によっても吸収率は異なりますので、媒質を透過すると、色が変わる場合があります。光学機器の設計には、この点を注意する必要もあります。

3.分散

分散は波長の屈折率変化のことで、色収差の原因となり画像の劣化に影響を与えます。色による屈折率の違いが大きい材料は「分散が大きい」といい、逆に小さい材料が「分散が小さい」といいます。プリズム光が分光されるのは分散があるためで、分散の大きい材料のプリズムは光が広がる範囲が大きくなり、分散の小さい材料では光の広がりが小さくなります。

通常、材料の分散は3つの光で測定されます。486.1nm(nF:ハイドロゲンFライン)、589.3nm(nD:黄色ナトリウムDライン)、656.3nm(nC:ハイドロゲンCライン)の3つの波長です。分散は、アッベ数(\(\nu\))で次のように表されます。$$ \nu = \frac{n_D – 1}{n_F – n_C} $$

ぞの材料でレンズを作った場合の赤と青の光の焦点位置の差(軸上色収差)を表しています。つまり、アッベ数\( \nu \)の材料でレンズを作ると、レンズの焦点距離の\( 1 / \nu \)だけ赤色と青色の光の焦点位置がずれることになります。

また、$$ n_D – 1 $$, $$ n_F – n_C $$ をそれぞれ屈折度、主分散と呼びます。